海外勤務者の税務の取り扱いは複雑であり、実務においても迷われることが多いと思われます。
ここでは、よく問題になりがちな事項を記載いたしました。
1.居住者と非居住者の区分
海外勤務者に係る税務の取り扱いにおいては、その人が居住者に該当するのか非居住者に該当するのかによって、課税の範囲や課税方法が根本的に異なっています。
居住者と非居住者の区分と税務上の取り扱い
区 分 |
定 義 |
国内源泉所得 |
国外源泉所得 |
|
居住者 |
永住者 |
次のいずれかに該当する者で、非永住者以外の者 @日本国内に住所を有する個人 |
課 税 |
課 税 |
非永住者 |
次のいずれかに該当する者で、日本国籍を有しておらず、過去10年以内に国内に住所を有していた期間が合計しても5年以下の者 @日本国内に住所を有する個人 |
課 税 |
国内で支払われたもの及び国内に送金されたものは課税される |
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非居住者 |
居住者以外の個人 |
課 税 |
非課税 |
2.海外勤務者に対する課税所得の範囲
海外勤務者は、税務上、居住者と非居住者に区分されますが、居住者に該当する海外勤務者については、国内であろうと国外であろうと、すべての所得について課税対象とされるので、海外勤務者としての考慮は特に必要ありません。
非居住者に対する課税所得の範囲は、国内源泉所得に限定されています。海外勤務者が非居住者となる場合は、特別な処理が必要となります。海外勤務者が非居住者となる場合の注意点は次の通りです。
(1) 国内勤務に対応する給与・賞与は20%の源泉徴収が必要
国内源泉所得に該当する給与・賞与とは、給与・賞与のうち国内において行う勤務に対応するものをいい、20%の源泉徴収が必要となります。
(2) 役員給与の取り扱い
@ 役員給与の原則
上述のように、非居住者となる海外勤務者については、国内において行った勤務に対応する給与・賞与だけが国内源泉所得として課税を受けるのが原則です。ただし、役員の場合は、この原則とは異なり、国外において行った勤務も国内で行った勤務に含まれるとされていることから、日本法人の役員に対する給与・賞与は、海外に勤務している部分も含めて原則として支払時に20%の税率で源泉徴収することになります。
A 役員給与の例外
ただし、日本法人の役員であるとともに同時にその日本法人の使用人として常時勤務しているような者の給与・賞与については、一般使用人と同様に、国内において行う勤務に対応するものだけが国内源泉所得に該当し、日本で課税されることとされています。
B 現地法人の役員の特例
また、日本法人の役員が海外の別会社の役員に就任した場合であっても、一定の条件を満たす場合は、日本法人の支店や工場等に勤務しているのと実態は変わらないと認められることから、Aと同様に国内において行う勤務に対応するものだけが国内源泉所得に該当し、日本で課税されることとされています。
役員給与の取扱い
区 分 |
原 則 |
例 外 |
支店・駐在員 |
日本法人が支払うすべての給与・賞与について、20%の源泉課税を受ける |
実質的には使用人として勤務している場合 ・国内勤務に |
現地法人 |
同上 |
現地法人の実態が日本法人の支店等と同様であり、その役員が実質的には使用人として勤務している場合 ・国内勤務に ・国外勤務に |
3. 海外勤務者と住民税
住民税とは、都道府県民税と市町村民税のことです。個人の住民税は、所得税等とは異なり、前年度の所得に対して課税される税金で、1月1日現在の住所の所在地の都道府県と市町村が課税します。
したがって、海外勤務者として出国し、1月1日現在において国内に住所を有しない場合には住民税は課されず納税義務もないことになります。年をまたがった出国の場合、その年末に出国するか翌年初めに出国するかで住民税の負担が大きく違ってきますので、事情が許すのであれば年末までに出国される方が個人としては節約になります。
4.短期滞在者免税(183日ルール)の取扱い
海外勤務者であっても、勤務期間が1年未満である場合は居住者となりますから、その者に支払う給与・賞与については、一般の国内勤務者に支払う給与・賞与と同様の課税を受けることとなります。
ただし、勤務地である国によっては課税が行われることがあります。
(1) 外国における課税の原則と外国税額控除
我が国における居住者と非居住者の区分は、我が国に住所又は1年以上の居所を有するかどうかが基準となっていますが、国によってはこれとは異なる基準を定めているところもあります。
一般的には、おおむね6カ月以上滞在すれば、その後はその国の居住者となる例が多いようです。
この例に該当する国に滞在した場合には、最初の6カ月間は当該国の非居住者となるので、当該国において発生した所得についてだけ課税を受けることになりますが、6か月を経過すると、当該国の居住者となりますので、全世界所得に対して課税を受けることになります。
したがって、海外に勤務した最初の6カ月間は、海外での勤務期間があらかじめ1年未満と定められている場合を除き、我が国でも当該国でも非居住者として取り扱われますので、2国とも自国での勤務で生じた所得に対してのみ課税を行うこととなり、国際的に二重課税の問題が生じることはありません。ところが、6か月を経過すると、当該国の居住者になり全世界所得に対して課税が行われますので、我が国で生じた所得について両方の国で課税を受けることとなり国際的な二重課税が行われることになってしまいます。
このように我が国と外国との間で二重課税が発生した場合は、一般的には居住者とされる国において外国税額控除の調整を受けることとなります。
(2) 租税条約による特例
我が国と当該外国との間で租税条約が締結されている場合は、その外国での勤務日数が183日以下等一定の要件を満たせば、通常は、租税条約による短期滞在者免税が適用され、給与・賞与については、その国での課税が免除されます。